はらり、ひとひら。
「さっきから呼んでいたのにずうっと先を行くから…迷子になったら大変だよ?」
たしなめる優しい声に心が疼いて息ができない。なにひとつ、変わっていない。在りし日の思い出が走馬灯のように浮かんでは消え、涙が出そうになって唇を噛んだ。
「お父さん…本物、なの? だってお父さんはもう、この世には…」
「え?」
訊ねれば困ったように父は眉を下げて、笑った。
「まだ怒ってるのかい? さすがにケーキひとつじゃ機嫌戻らないか、ってここに連れてきてあげたんだけど…」
「? どういうこと?」
「父さんが単身赴任で行ってる間、大変だったろう。でもさすがに殺されちゃあたまったもんじゃないなあ」
あははと呑気に笑った父に毒気が抜けていく。話がまったく見えないが、この夢で父はまだまだ生きているらしい。
「今日は家族サービスだ! さあ、いっぱい乗って、一日楽しもう!」
娘より張り切る父に、そんな年甲斐もなく…と思う前に、もうなんでもいいかも、と一緒になって走り出した。
空いた、わざと見ないふりをした心の隙間が埋まっていくようだった。
少しずつ すこしずつ
・ ・ ・
何に乗りたい? と訊かれて迷いなくジェットコースターと答える。
絶叫系が苦手な父は若干嫌がりつつも承諾してくれた。
「うわあ怖い! 杏子大丈夫!? 怖くない!?」
「へーきでーす」
手繋ぐ!? と差し出された手を「安全バー握っててくださーい」と払った。さすがの私でも、もうお父さんと手を繋ぐ年じゃないし夢とはいえ気恥ずかしい。
そういえばお父さんは昔から過保護で甘かったなあと笑う。隣を見ればお父さんは堪える様にぎゅっと目を瞑っていた。
カタカタ音を立てて限界まで高く上ったコースター。いっきに速度を上げて、落ちる。
「きゃーーー!!」
この爽快感がたまらなく好きだ。風を切ってスピードに乗る感覚が。
やっぱり、いくつになっても遊園地って素敵。
「ぷっ、お父さん大丈夫?」
「だ、大丈夫…」