はらり、ひとひら。
膝に手をついて目を回す父がおかしくて笑う。背中をさするとなんとも間抜けな声で「ありがとう…」と返された。
「やっぱりハードなアトラクションはやめといた方がいいね」
「いや! とことん付き合うよ今日は! 遠慮しなくていいからね」
「そんな青い顔で言われても」
説得力ないですから。
「ううん…次は何に乗ろう」
「あ、見てほら杏子。昔杏子が好きだったやつ」
指差された方を見ると、そのアトラクションはちょうど動き出した。楽しい悲鳴には似つかない、少しそこだけ優しい何とも言えない時間が流れていく。
メリーゴーランド。
「乗る? 折角だし」
「えぇっ!? で、でももう私今年で18だよ?」
「まだまだ子供だって」
朗らかに笑う父にちょっとだけ子ども扱いされた気がしてむっとする。
軽快な音楽と共にゆらゆら上下する白や茶色の毛の馬。馬車。女の子の夢がつまった箱だなぁ。
「えっ、ちょっとほんとに乗る気!?」
「いいじゃないか。昔を思い出すだろ?」
「待ってすっごい恥ずかしいんだけど…」
やけにノリノリなお父さんに気後れしつつも私はメリーゴーランドに乗ることに。
背がかなり伸びたはずでも、思ったより馬は高くて驚いた。それこそ昔は父に抱き上げて乗せてもらったっけ…
隣の馬にはお父さん。なんで笑顔でわくわくしてるの。
「馬車に乗ればよかったのになんで隣なの~?!」
「杏子が落っこちないか心配で」
「落ちないよ! いくつだと思ってるの!」
つっこむとお父さんはやっぱり笑った。もともと細い目が更にきゅっとなって、上がった口角が幼い。やっぱり海斗、似てる…
ふと思う。お父さんといたとき私、こんな感じだったっけ…でもそうか、きっと生きてたら。こんな。
こんな幸せな毎日が待ってたのかも。
軽快な音楽が流れ出して、くるくる、メリーゴーランドは回る。
ふわふわ浮く体に頭まで浮いて、また少し胸が軽くなった。