はらり、ひとひら。
・ ・ ・
「杏子? 元気ない? 疲れた?」
え、と驚いて顔を上げた。
「私…疲れた顔してた?」
「うん。ちょっと休憩にしようか」
自覚はなかったが頷いて、適当なベンチに腰かけた。
乗り物全部を制覇せん勢いで乗りつづけたことが祟ったか、疲れが顔に出ていたらしい。
全然疲れてなんかないし、むしろ楽しいんだけどな…
不意に気が付く。あれ、今何時だろう。がさごそと鞄を漁ってスマホを起動させると、時間は私がここへ来た時─最後に端末に触れたときから、一分も進んでいなかった。
ぞわりと寒気が背中を駆けあがり得も知れぬ不安が襲ったが、そうか。これは夢だ。
時間の進まないのも当たり前なんだと言い聞かせている頃、父はアイスを両手に持って帰って来た。
「お待たせ、はい。杏子どっちがいい?」
どっちもコーンのアイス。イチゴとバニラか…迷うな。
「んー…イチゴ!」
「あはは、だと思った」
そんなことまでわかるの? 笑って礼を言い、アイスを齧った。
ひんやりとした冷たさと甘さが身に染みる、ともう一口齧ろうとした瞬間に私の口の中は酸味でいっぱいになってびっくりして吐き出してしまう。
「っ、なに、これっ変に酸っぱい…!」
「大丈夫? ほら口拭いて」
唖然としてアイスを見つめる。なにこれ、腐ってる? 近づいて匂いを嗅ぐと確かな腐敗臭が漂っていた。うげ、と声をあげて鼻を摘まんだ。
こんなにここのアイス、不味かったっけ─
「食べれない? 交換しようか?」
父が気を利かせてもう片方のを差し出したが、気が進まず首を振った。
捨てようと言ったがもったいないから食べちゃうね、と笑うと父は平然と腐敗臭のするアイスを平らげた。
「全然おいしいじゃないか」と笑いながら。