はらり、ひとひら。
若干味音痴な父でもさすがに腐った食べ物まで食べるだろうか、怪訝に思いながらも流した。
「じゃあ次は、あれに乗ろうか。コーヒーカップ」
「食べたすぐあとなのにいけるの?」
「平気平気!」
父は、お父さんの胃袋は丈夫なんだぞ、得意げに笑った。
そうだっけ。
「よく週末は二日酔いになってお母さんに怒られてませんでしたっけ」
「うぐっ…」
「食あたりも多かったよね」
「なんでそんなに覚えてるの杏子?!」
…なんでだろう。
大事なお父さんのことだもん、忘れるわけないじゃんと言おうとしたがやめて笑ってごまかした。
言ったら父がどんな顔をするか、わからなかったから。
「丈夫なんだよほんとに! お父さんは杏子一人くらいならペロッと食べれるくらい、大きい胃袋を」
「わかったってば」
私食べられちゃうのかい。やだよしかも実の父なんて。
「けっこう狭いねえ」
「こんなに小さかったんだねコーヒーカップ」
およそ大の大人ふたりで乗るにふさわしくないであろうアトラクションに押し込められる様に座った。
「杏子が、大きくなったんだよ」
慈しむような声に、身動きがとまる。
ゆっくり顔を上げた。
向かいの父と目が合うと見慣れた、脳裏に焼き付いた記憶と同じように笑って、私の頭を撫でた。
大きな手のひら。撫でられると心地よくて、涙が出そうになる。
「大きくなったなあ…うん、本当に…こんなに綺麗になっちゃって」
「なに、それ」
綺麗になったらいけないみたいな言い方、唇を尖らせ意地悪く返すと慌てた声。
「心配なんだ。変な男に捕まったりしないか」
「捕まらないよ」
「…そっか。そうだね、杏子は花代の娘だ、何も心配ないね」
目を閉じないと赤い目がばれそうで、私はうつむいて瞳を閉じた。