はらり、ひとひら。


「お母さんにそっくりだ、杏子。よく顔を見せてごらん」

「…やだ。お父さんなんか、言うこと親父くさい」

「はは、親父かあ」


参ったな、なんて言うだけ。ほんとは思ってもないくせに。


「杏子? お願いだよ、顔を見せて」


柔らかいその声に、私が逆らえないこと知ってるでしょう。


ぼろぼろと涙をこぼす私を見て父は目を丸くした。が、すぐにまた目を細めて笑う。


「どうして泣くの。どこか、痛いのかい?」

「お父さん…」

違う。違うの。嗚咽が邪魔をして声にできない。駄々をこねる子どものように、首を横に振った。


「泣き虫だなぁ。杏子は」


さらさらと風に乗って髪が靡いた。父の日に透ける茶色の髪と対照的に黒髪の私。

誰も回さないコーヒーカップのハンドルは自動的に動いて、ゆるやかなスピードを出していた。



「おとう、さん…」


胸が張り裂けそうに苦しい。

返事を急かさないように、お父さんは私をただ優しい目で見つめた。


言いたいことは山ほどあった。夢で会えたら、文句だっていくらでも言ってやるつもりだった。


だけど実際目の当たりにすると、もう本当に寂しさだけがこみ上げてどうしようもない。



「寂しかった、よ─」


なんでいなくなっちゃったの。

ずっと一緒にいてほしかった。

おいていかないで。
 
ママをひとりにしないで。


幼い頃の私。物置部屋で一人、父が灰になった日。声を殺して泣いていた。



「ずっと、ずっと」


想っていた。


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