はらり、ひとひら。


妖は塵も残さず、綺麗さっぱり消え去っていた。陣の形跡もない。


「なんだか、可哀相な妖だったね」

神崎くんはぎゅっと唇を結んで何かをこらえるようにした。

「神崎く…」

「…父の仇なんだ、あいつ」

「え」

目が合うと彼は少しだけ笑った。


「あの妖をああなるように仕向けたのは俺なのかもしれない。最初から祓っておけば、椎名さんもあんな目に遭わせなかったのに」

何人犠牲になったかわからない。その人たちも救えたのに、とその声は震えていた。


「だけど、私は無事だよ。神崎くんも、無事」

だめだ、堪えろ。私が泣きそうになってどうする。

彼は力なく笑って、首を振った。その笑顔がどうしても亡き父と重なってしまう。


「…いつも遅いんだ、本当に何も出来ない。俺には、この家の…神崎という姓を名乗る資格すらないのかもしれない」

「っ」


そんなことはない。言葉を紡ぐより早く彼の体を引き寄せた。
体温、心音、心地いい匂いが恥ずかしいだどうだとかじゃなくて、今だけ。


「しばらく、こうさせて」


言葉で伝えるよりもっと的確に思いを伝える方法。

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