はらり、ひとひら。
暫くの沈黙のあと、ふふっと息を吐く声が聞こえた。
「…ありがとう」
されるがままだった神崎くんは、そっと自分の両腕を持ち上げて私を閉じ込めた。
だ、抱き合っている。なんてこと。
いつもの私だったら、速すぎる心臓の音がバレてしまう、なんて考えるだろうけど今はただ彼のぬくもりに安心するだけ。
「いなくならないで、お願いだから」
か細い声だった。
頭の上から落ちる、願うような声に何度も頷く。
「いなくなったりしない。絶対」
「不安で堪らないんだ。椎名さんがいなくなったらって考えると…どうにか、なりそうで」
「私も神崎くんがいなくなったら、嫌だなぁ…」
大丈夫、ここにいるから、と伝えると背中に回された腕に力が篭もり、より強く抱き寄せられた。
「安心する?」
「…するけどどちらかといえば緊張する」
「私も」
へへっと笑って、どちらともなく離れて、お互いの顔を見合った。彼の目に映る私は大層顔が赤いことだろう。目の前の彼もほんの少し耳が赤い。
そっと、髪を耳にかけられる。
「ぁ、っ」
いきなり神崎くんの手が耳に当たったせいでちょっとおかしな声が出てしまう。
恥ずかしくて顔を覆うとぷっと彼が吹き出した。