はらり、ひとひら。
月子ちゃんはその場を仕切るように声を張った。
「とりあえずお義兄さんとお姉さんは無事だったんですね?」
「うん」
こくり、隣で同じように彼も頷く。
「二人を隠していた妖も退治した。で、正体は…ええと、幻を見させて、肉体より精神を奪おうとしていた妖…?」
「あぁ。最初こそ肉体を喰らっていたんだろうが、血肉より心の方が美味いと気づいたんだろうさ」
灯雅がフォローするように言葉を紡いだ。
「あいつは人の心の動きを察知して、心がかき乱された人間のもとへ現れる。…杏子。お前、あの部屋で何をしていた」
師匠の目に問い詰められると答えるほかない。
白状しかけた時、かぶせる様に「まあ」と師匠が口を開いた。
「聞かんでもわかるがな。大方、死んだ父親のことでも考えていたんだろう」
「…!」
神崎くんと月子ちゃんが息を呑むのがわかる。
わずかに胸のあたりがぎゅっと縮こまる。およそ心というものがある位置を竹槍で突き刺すような、この感覚には慣れない。
黙って頷き、ごめんと謝った。
「少しだけ、つらくなっちゃって。でももう、幻でもちゃんとお別れできたから」
仕舞って鍵をかけた古い記憶。わざと、見ないふりをしたつらい傷跡。