はらり、ひとひら。


私は、逃げていた。大好きな父の死など、どう正面から向き合えというのだろう。

あの妖が見せたのは一時の、私を釣るための餌に過ぎない。

だけど私にはどうしても、本当の父が忠告しに来てくれたような気がしてならなかった。


きちんと目の前のことに、目を逸らさず向き合え、と。


頭の中で父であって父でない声が反響する。


『これから先、命を落とすかもしれない』


…怖い。やっぱり足がすくんでしまう。逃げたくもなる。…だけど、それでは前と同じまま。変わらない。



「ちゃんと見るから」


きゅっと拳を握ってとん、と師匠の肩に押し付けると師匠は満足そうに笑ってその手を取った。


「よかろう。この小さき掌でどこまで戦えるか、何を守れるか。見ていてやる」

「…望むところ!」

ふんすと鼻息荒く吐き出すと、師匠は意地悪く笑った。

「ま、お前のこの手では守れるものなど足元の毛虫くらいだろうがな」

「け!!?」

ひどい! 

「私がいなければ何も出来ぬ赤子だしな」

「ちがーーう!」


何さ、ちょっと見直したのに! 身を挺して私を助けに来てくれたと思ったのに!

やっぱり私の式神は意地悪だ。神崎くんの千倍は意地悪だ。


「さ、帰るぞ。すっかりいつもの調子に戻りおって」

「う、わ! 引っ張らないでよっ、ってぎゃああ担ぐなあぁぁ!」


米俵か私は! 降ろしてふつうに恥ずかしい! 暴れても師匠はどこ吹く風。それどころか面白がってる気がする…!








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