はらり、ひとひら。
「うーん」という言葉のあと「65点!」となかなかシビアな点数が言い渡された。
「まあ、あってるっちゃあってるけど。確かに一番の脅威になり得る平坂を保護するっていうのは、一番理想的だと思うけどさ。考えてもみろよ」
千鶴兄さんの、普段より低い声が響く。
『どうしてこのタイミングで平坂家が生きているとわかったか』
確かに。大いなる疑問はそこだ。
麻上家の当代の主の顔をみた者はいないし、この町にいるのかどうかすらまだ、足が掴めていない。
ただ生きてはいる。それだけは確かにいえること。
けれど平坂はずっと昔に戸籍も抹消されて、歴史の闇に葬られていた。確定された事実だった。
それが何故いま、生きているとわかったのか? 誰かが工作したのか? あるいはその平坂は、影武者なのか? 神崎家に恨みのある者が適当な噂を流して、俺たちをゆすっているのか?
はた、と気づく。
「この情報を流したのは、まさか」
麻上自身?
「恐らくな。誰に吹聴してどこから広まったのか、それだけが謎だけど。…麻上は、いる。この町にいるんだ」
息を呑んだ。…いったい、どこに?
「どこの連中も式神使って街中必死こいて探してるよ。果ては適当な似顔絵まで出回る始末」
「…」
何枚も何枚も千鶴兄さんは笑いながら「お尋ね者」と書かれた似顔絵を出して、俺に見せる。描かれたイメージ上の『麻上』は、無精髭を生やした男だったり、目付きの悪い若い男だったり、丸顔で垂れ目の女だったり、小太りの中年女性だったり…千差万別だった。いったいどれが本物なのか。
「ま、正解があるのかないのか、さっぱりだけど。…今の疑問は平坂をどう100年、足がつかないように生かしてたかだよな」
「うん。この町は大して大きい町ではないし、田舎特有の近所付き合いもある。怪しい行動が見られればすぐ噂になって広まるはずだ」
「そうだよなあ。だとするとやっぱ、軟禁でもなんでもしてたのかなあ」