はらり、ひとひら。
「…なんで人型なの?」
「またやらかしてしまった…くそう、あの日龍神に攻撃を受けてから恰好が安定せんのだ」
「ええっ?」
それはなかなか大変なことじゃ…
「あの龍神め、何か妙な術でも私に施したんじゃないだろうな」
「まさか! 蛟がそんなことするなんてありえないよ」
「私の体に何か異変がないか見てくれ杏子」
なんのためらいもなく着物を脱ぎ始めたのでこっちが面食らった。薫も師匠もどうしてこの男どもは、脱衣の前に一言おかないんだ。
例えば変な呪文が書き連ねられていたり、おかしな石が埋まっていたりしないか? と疑う師匠の背中をぐるっと見回してみたけど特に何も見つからない。
傷跡すら綺麗さっぱり消え去って、羨ましいくらいのつるつるの肌があるだけだった。
「やっぱり神様の攻撃って妖とワケが違うの?」
「…ふん。そうだな。妖と違ってただ『殺す』ためだけに神は力を振るわない」
「そうなの?」
「もちろん殺しを司る荒ぶる『禍つ神』ならば話は別だ。だがあの龍神は『和魂』。龍神が人殺しをするなぞあってはならん話だが、仮にあの時の奴に殺意があれば、私は今ここにいない。そこの小僧とお前もろとも地獄行きだったな」
ぞっとした。
「師匠は蛟に勝てないの?」
「…お前……神と妖を混同しているな。勝てるわけがないだろう」
呆れつつあっさり負けを認める師匠はすごくレアな気が…って待って。
「さっき言ってた『まがつかみ』とそれからえーっと…『にぎ、たま』? って何?」
「はああ? 知らないのか?」
「うん。初耳」
鍋つかみみたいなものだろうか。鍋。…そういえばお鍋もボロボロだしそろそろ買い換えなきゃ…
「お前今失礼なこと考えているだろう」
うわっ顔に出てた。
「はー…よかろう。今日は私が直々にお前ら人間二人に『教育』をしてやる」
「ええっ。学校で充分勉強して来たのに!」
「なんだその反応は。もっと喜ばんか。そもそもなぁ、お前は無知すぎるのだ。ああ、よし決めた。とことん教え込んでやろう、幸い時間はたっぷりあるしな」
「いやあああ! って薫は何してるの!」
「なにこの紙切れ。すう…がく? 3点って書いてある」
勝手に人の小テスト見ないで!