はらり、ひとひら。


・ ・ ・

完全にやる気モードが入った師匠ととりあえずノートを広げてみた私。隣の薫は興味なさげにテーブルに顎を乗せていた。

「いいか。まず和魂(にぎみたま)についてだ。神には大きく二分して和魂と荒魂(あらみたま)、ふたつの霊魂が宿っているとされる」

「にぎみたま…と、あらみたま…ね」

「荒魂は神の荒ぶる気性…たとえば祟りや天災、病なんかがそうだな。それらを人間どもに与え、心をすり減らせ争いへと導くはたらきがある。簡単に言えば、荒魂は神の怒りそのものだな」

「ほお」


荒魂は文字通り、危険で争いを起こす魂ってことね。


「反対に和魂とは、雨や日の恵みなど人を助ける力を与える、極めて穏やかでやさしい魂だ」

人を助ける、優しいのが和魂。

「だから平和の和と魂で、和魂。文字通りだね」

「そうだ。この二つの魂はわかったか? ほかにも和魂は幸魂(さきみたま)と奇魂(くしみたま)にわけられるが…混乱するのを避けるため今はやめておく」


なんとか、大丈夫と頷く。隣の薫も一応聞いてるみたいで、首を縦に振った。


「無論人は神の和魂のはたらきの部分だけを欲する。好き好んで天災を起こしてほしいと願う者はいないだろう」

「そりゃあね。できれば水不足の時に雨を降らせて、長雨で作物が駄目になる前に晴れてほしいよね」

師匠は頷く。

「うむ。だからそのために…」

「捧げものとか祭りをするんでしょ。神の怒りを鎮めるために」


薫がぽそっと答えた。あ…! そうか。そういう仕組みなんだ。


「私の先に答えを言うな。生意気な奴め」

「こんなの別に考えなくったってわかるだろ。…そうでしょ、杏子」

「……ウンわかってた」

「わからなかったな」

「…みたいだね」


う、るさいな。どうせ私は頭悪いですよーだ!

…いかんいかん。本当なら私が薫にいろいろ教える立場なのに。


「コホン。じゃあつまりは神様を祀れば神様はそれに応えてくれて生活を潤して、…疎かにすれば、怒って祟る場合もあるってことね?」

「ほお。杏子にしては飲み込みが早いじゃないか」

「やかましいわ…!」


にやっと笑った師匠にムカッとして殴る真似をした。



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