はらり、ひとひら。
あの日──…
「薫は、人間…だよね?」
「…多分」
平坂 薫。
それが薫の本当の名前だと、神崎くんにそう聞いた。まだあくまで憶測の域を出ないらしいけど。
─『あれは、人でもなければ妖でもない』
神崎くんの目に宿っていたのは薫に対する憎しみと、憐憫(れんびん)の情。
薫もまた、神崎くんに対して初対面とは思えないほどの感情をぶつけていた。
薄々見えてきた。薫と縁があるのは私だけじゃない。
神崎くんも同じだ。
確信を持って言えること─この三家は過去に『なにか』があった。
おそらく何か、よくないことが。
「半妖、修羅の血…か」
少しずつ絡まった糸がほどけてきた手ごたえはある。
けれど現状、わからないことのほうが多い。
「でも」
─なんだって薫は修羅の血を引いているんだ?
大いなる疑問はそこにある。
修羅の血は強い霊力を持った"人間"が生まれながらにしてもっている物。
でも薫は、何かの妖と人のハーフ。
つまりは薫の体には妖の血と人の血が混在している。
修羅の血は妖を弾く効果がある。反対に妖の血は修羅の血を欲し、穢そうとする。
それはほぼ制御不能な本能に近い。
そんなものが常に体のなかで混ざり合っていたらどうだ。
反発が起きないとも限らない。
まさに水と油のようなこの二つが混在しているだなんて、にわかに信じ難い。
術か何かでそうなるよう、薫の体は調整されているのか?
それとも生まれつき備わった体質のおかげで、拒否反応が起きずにすんでいるのか?
なんにせよ薫という存在はとても類まれで、異質だ。
「くそー…どこにも載ってないか」
これもはずれだ。
修羅の血の修の字も、平坂家というワードも出てこない。
最近は時間があれば蔵にこもって朝から晩まで書物を読み漁っている。
すさまじい量の文献は読んでも読んでもなくならず。
夏休みもあと数えるほどしかない。焦りは募るばかり。
薫は文字が読めるので手伝ってもらっているけど─
あの日、薫の手を払ってしまってから彼は随分よそよそしくなってしまった。