はらり、ひとひら。


次の日目が覚めるとやっぱり師匠はいなかった。

まるで夢でもみていたような気分。けれど畳に散らばった無数の花弁がすべてを物語っていた。


夢なんかじゃない。

師匠の帰るべき場所はあの場所だった。

そしてあの桜子さん。なぜあなたが霊界にいる?


またひとつ疑問が増えてしまった。

師匠に悪いことをしたという気持ちは払いきれない。でも今は─


「…忘れよう」


初めから出会わなかったことにすればいい。

そうすれば悲しくもなんともない。


彼はあくまで『務め』のために私を守っていたんだ。…はじめからそこに師匠の意思はない。


「なんか…はは、なんだろ。なんか真夏なのに寒いや」


起きるにはまだ少し早い。私はタオルケットを頭から被って目を瞑った。

泣く権利なんてないから必死に唇を噛んで耐えた。



…それが今朝の出来事。



「白ぎつねと喧嘩でもしたの?」


いつの間にか立っていた薫に驚いて飛び跳ねた。

蔵から戻って来てたんだ…

「なにその反応」

「びっくりした……」

「人を幽霊みたいに言わないでくれる?」

「あは、ごめん」


考え事していたから足音も聞こえなかった…


たっぷり注いだお茶を渡すと薫はひといきに飲み干して、私の向かいの椅子に腰を下ろした。


「あいつ、杏子の用心棒じゃないの?」

「まあ…そうだね」

「捨てたの? 役に立たなかったとか?」


なんだろう、今日の薫はやけに食いついてくる。


「別にっ。捨てたわけじゃないし、喧嘩したわけでもないよ。…ちょっと距離が必要かなって私が判断しただけ」


務めて明るく言ったつもりだった。
薫は頬杖をついて「ふうん」と空返事。
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