はらり、ひとひら。
それにしたってよくこの量の本を二人がかりとはいえここまで読み進めたもんだ。
読了したものとまだのもの、それぞれ分けて置いてあるけどかなり未読の本は減っている。
それでも修羅の血や桜子さん、椎名家については未だに有用な情報は得られていない。
「あれ…おかしい。確かこのへんに置いておいたんだけど」
薫が指差す簡素なテーブルの上には文字通り何もない。
困惑した表情を浮かべて薫は蔵の中を歩き回った。
「えっ。なくなった?」
「わかんない。でも絶対、ここに置いた。すぐ休憩して戻ると思ったから鍵もかけなかったんだけど…」
さぁっと血の気が引いていく。
まさか泥棒?
でもこんな田舎に現れるだろうか? しかも古ぼけた本を一冊奪うために?
「無意識に読み終えたほうの本棚に戻したとかは?」
「それは絶対ない。眩暈がしたのに本棚まで歩いていけるわけないし」
ううん、確かに。
じゃあ薫はその謎の文字を見て眩暈がして…咄嗟に本を脇の机に置いた?
「そう。立ってられなくて、汚すわけにもいかないから本はとりあえず置いて…
そしたら急に目の前が真っ暗になって、ちょっとの間意識を失ってて」
気絶したとか大事なことをなんで最初に言わないんだろう…
はあと溜息をついた。
「ごめん。俺のせいだ」
「ううん。まだそうと決まったわけじゃないし、探してみよう」
薫が倒れた隙に忍び込んでサッと奪うのは可能だろう。
だけどそれでは盗人は薫が倒れるのを待っていたことになる。
一か八かに賭けたのだろうか。
それは些か現実的じゃあない。
あるいは薫が記憶を戻す鍵…とある文字に反応して気絶したように見せかけて、どこからか薫を狙っていた?
「薫、変な人影とか見なかったの?」
「いや。特には……ん? いや、でも…」
「なに? なにか見たなら言って」