はらり、ひとひら。
情報欲しさに詰め寄ってしまうがそれは逆効果なようで、薫は更に狼狽した。
背中をさすって落ち着かせたけど、なんだかとても苦しそう。
これ─まるで記憶を取り戻そうとしてるときみたいな…
「っ、わからない。思い出せない…! でも何か、誰かいたような…気がする」
「!」
ようやく気が付く。
まさか─更に記憶を操作されているのでは?
見た感じ薫に外傷はない。
いや…あったとしても修羅の血の効果でもうとっくに傷は癒えている頃合いか。
生傷があれば何かヒントになったかもしれないが、こういう時に限ってはもろ刃の剣だ。
だけどそもそも、記憶操作の術なんて聞いたこともない。
「ねえ。薫が読んでいたその本、なんていう名前だった?」
もしかしてそれも覚えてない? と危惧したが薫ははっきり答えを口にする。
「いや、本の名前は覚えてるよ。藍色の表紙に白色の文字で、『関高築町の歴史 上巻』。そう書いてあったよ」
「歴史本…?」
そんな本があったなんて気づかなかった。
上巻ということは続きがあるはず。
薫の核心に触れた『何かの文字』の正体は不明だが、とにかく今は続きを探すべきだ。
同じワードが乗っているかもしれないし。
「薫はそっちの棚を…」
勢いよく歩み出したところでなにかを思い切り踏みつけた。
ぐにゃんという感触に慌てる暇もなく、したたかにお尻をコンクリートに打ち付けた。
「いたあ!?」
「ちょっと! なにしてんの」
「ッたた…ありがとう…」
呆れながらも手を貸してくれるところが師匠と被ってツキリと心が痛んだ。
誤魔化すように足元を見る。
なんだこれ。
「…手毬?」
こんなの、今まであったっけ─
不審に思って手を伸ばす。
「まって。なんかソレ、やな感じする。…触るのやめといたら」
「…そう?」
薫に腕を引っ張られすんでのところで毬には触れず。
だけどこのままにしておくのは気が引ける、と言おうとした矢先。
薫はなんてことない、って顔で毬を拾い上げた。