はらり、ひとひら。
「……桜子。お前さほど驚いた様子じゃないようだが…まさか視えていて、このざまになったわけではあるまいな」
鋭い視線。
これまで目線ひとつ寄越さなかった女が、こちらを睨みつけた。
「馬鹿を言え。この私がお前に嘘偽りを告げたことがあるか?…今回は本当に予想のできなかった事態だ。本当に…すまなかった」
「!」
別に謝らせたいわけではなかったのだが。
くそ、女の扱い方はちっともわからん。
「…あー。いや、すまない。ともかく…現状なにか妙案はないのか?」
「それがあれば良いのだがな…」
術で無理に霊界へ飛ばされた、それだけでもこの身への負担はかなりのものだった。
桜子の世界へ飛ばされたことが奇跡とも言える。
間違ってどこぞの禍つ神のところへ飛ばされていたら、全身は散り散りになっていたことだろう。
考えて身の毛がよだった。
「くそう杏子め…! 早く出さねば頭から食ってしまうぞ!!」
苛立ちから変化をし、どこが始点でどこが終点なのかさっぱりわからん世界で力を放った。
見かねた桜子が小さく嘆息した。
「やめておけ。転送術は外からしか掛けられない。…つまり解くのも外部からのみ。お前がいくら暴れたところで、霊界には傷ひとつつかない」
「……それではどうするのだ」
「そうだな─運よく外からこの世界を壊してくれるのを待つか…孫がお前を呼び戻すか、どちらかだな」
どちらも確率はゼロに近いだろうに……
「というかそもそも、この世界が崩壊したらお前は死ぬだろうが」
「そうだな。だがお前は外に出られるだろう。何も問題はない」
「っ…それでは意味がないと言っているんだ!」
わからん女め。
どこまでニブチンなのだ。
賢いくせにこういうところは昔からまるでさっぱりだ。
が、呆れ腐ったのはこちらだけではないようで。
「はあ。なにが『意味がない』だ。お前の本当の目的はここに居ることじゃない。私はなんと命令した? 『杏子を守れ』と言った筈だが」
「……」
「ばつが悪いと目を逸らす…本当に、昔から変わらんな」
懐かしむように彼女が微笑むと桜がひらりひらりと舞いだした。
この世界の桜は確か─こいつの気持ちと繋がっているのだったか。