はらり、ひとひら。
「…すまん。私が悪い」
だがまさか杏子が私に術を仕掛けるとは思わなかった。
驚いて抵抗すらする暇もなく。いや…しても、振り払えたかどうかだ。
ひどく悔しく腹が立ったが、驚いたと同時に少しばかり喜ばしくもあった。
ここまで杏子は力をつけていたのか、と。
「まあ、言霊も身固めの術も使われては抗えんな。そこは気にするな」
「お前以上に杏子は恐ろしい女だ…」
「はは。驚いたがある意味安心したぞ。やろうと思えばきちんとやれる子だとな」
そうだ。
あいつは基本的に弱い甘ちゃんだが、その気になりさえすれば力は未知数。
秘める力はどこまであるのか。
「─だが白狐がここから出られんのは痛手だ。対処を考えるのも大事だが、今は修復をするぞ、手伝ってくれ。霊界が術の影響で僅かだが綻んでいる。このことが蛟に知られては厄介だ」
本来霊界へ行くのにはきっちりと手順を踏まねばならないのだが…転送術は無理やり霊界に穴を開ける術のため、この世界のどこかがほつれてしまったのか。
目敏い龍神のことだ…隙をついて侵入してくるとも限らない。
「任せろ。さっさとやるぞ」
「ああ。急がねば」
─桜子は、龍神に命を狙われている。
「あの龍神が奉具を取り返しにくる前に……」