はらり、ひとひら。


side-神崎


間違いない。

手元の資料に目を落としながら嘆息した。


「だがまだ、決定打にはならないさ。決めつけは早計ってモンじゃないのかい」

「それはそうだけど。奴を違うと否定するにも足らないだろう」

「…そうさねぇ」

灯雅も眉を寄せ考え込むが、暫く黙ったあと思い出したように大きなため息をついた。

「何度追っても森に入るとまかれちまうんだ。まったくこっちの方が長く生きて森の地形も熟知してるってのに、不甲斐ないね…あんな真似、相当地形が頭に入ってないとできないことさ」

ごくりと唾を呑む。
隠密行動を得意とする灯雅に気づいたうえ、それをまくだなんて。
わかってはいたけれど、麻上交宵─それほどの切れ者だとは。

「気にしなくていい。麻上の向かってる方角は?」

「西の森へ行く方さ。奴の住処があるかもしれない、だが撹乱目的の可能性も…っ」

「っ、灯雅!」

突然、柱に凭れるように立っていた彼女の下肢が崩れた。
支えをなくした体は畳へ倒れ込み、部屋の花瓶が揺れ音を立てた。

ひどい疲れの色が見て取れる。
少し、無理をさせすぎたか。


「ごめん。疲れてるよね、今日はもう休んで…」

「そんな顔した主に言われても、説得力ないよ」

「…」


言われてようやく気づく。
視界がぐらぐらするのは自分も同じだった。

遠近感もわからず、灯雅の顔がよく見えないが寂しそうに笑っているふうに見えた。


「ここ数日ろくに寝てないんだろう。そんな体で式神何体も使ってんだ、神経も体力ももう限界なはずだ」

「…それは、灯雅も同じだよ」

「あたしは妖だ。こんな程度じゃ死にゃしない」

からから声をあげて笑う彼女は得意げに胸を叩いた。
それでもいつもより声はずっと上ずっている。

「それにあんたは常にあたしへと力を供給してる。だからまだあたしは平気だ。今すぐ休養が必要なのは主のほうさね」

分ける力ももう残ってないだろう、とその通りの言葉にぐっと唇を噛んだ。



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