はらり、ひとひら。
枯渇した人の身から妖へ分け与えられるのは残りかすのような微力な霊力。
それでは式神にとっては何の足しにもならない。
このままでは二人、共倒れだ。
「…わかった」
ここは大人しく眠ったほうがいい。
体力を温存するのも賢い選択のひとつだ。
携帯のアラームを二時間後にセットして、横になった。
「灯雅も寝たほうが…」
「気にしないでおくれよ。主がこうして休んでるの見ると、それだけで大分楽になるからさ」
「でも」
「いいからいいから。さっさと眠っちまいな」
柱に寄りかかったまま頑なに横にならない灯雅が心配でならなかったが、眠気が高波のように襲い掛かり、成すすべもなく俺は泥のように眠った。
あぁ、もっと上手くやれないだろうか。
眠らず、休まずとも力が行使できればいいのに─…
・ ・ ・
目を開けるとそこは、広い世界だった。
白い。
霧か…?
あまりの白さにまばゆさは感じるものの、いやな気配はあまりしない。
だが油断するわけにもいかない、寝ている間におかしな世界に連れ込まれたとも限らない。
夢を利用してこちらに付け込もうとする妖なぞ、腐るほどいるのだから。
まったく、休んだ気がしない。
「ここは」
夢?
なことには違いないが、やけに鮮明だ。一体どこだ。
辺りを見回すと顔に何かが触れた。
小さな欠片のような─これは…
「桜の花びら…」
その花を理解した途端に、白い霧に埋もれた場所が開けて景色がはっきりと浮かび上がった。
桜小道だ。
延々と続く細い道、美しい桜の木々が揺れ惜しげもなくはらはらと欠片を零している。
注意深く辺りを見回しながら、歩みを進める。
いつまでもあそこで立ち止まっているわけにもいかない。
ここが妖の見せている夢ならば早く親玉を見つけて始末しなくてはならないし、じっと待っているのは性分に合わない。
なんて不穏な考えを孕む脳とは裏腹に、鉛のようだった足がいつの間にか軽くなっていることに気が付く。
「なんだ…? 急に体が楽に」