はらり、ひとひら。
人型の白狐は俺を見るなり抱えていた白い箱を落っことす。
派手に中身が散らばって、ぐしゃっと嫌な音がした。
もったいない、とよく見てみれば京菓子のようだ。これは随分とまた高そうな…
「おおおおお前がなぜここにいるッ」
いけない、和菓子につられてつい状況を忘れかけてしまった。
「それはこっちのセリフだよ」
「なにぃ!? 桜子、客とはこいつのことだったのか!?」
「耳がキンキンする…喚くな白狐」
心底いやそうに桜子さんはそう呟くと、なにか術のようなものを呟き、人さし指で印を結んだ。
何をするつもりだ?
この人も術を使うのか─? まるで同じだ。椎名さんと。
「っ…!?」
瞬間、白い欠片が迸った。無限とも思える花びらたちが視界をジャックする。
なんて霊力だ!
「身構えずともいい…と言っても、無理があるか。だがわかってくれ、私はお前に危害を加えるつもりはこれっぽっちもない。
さあ、座ってくれ。話はそれからだ」
「……」
まったくどうなってるんだ。
とんだイカサマ、いや、マジックだ。
桜の咲き乱れた小道はどこへやら。
目を開けたときに俺は静謐な和室にいて、桜子さんは座布団に座りくつろいでいた。
綺麗な色の双眸が、意外そうに俺を見た。
「あまり驚かないんだな」
「驚いてますよ。…これでも」
「そうか?」
「あまり顔に出ない質ですが……今のは、術の類ですか?」
桜子さんは少しだけ頬を緩めて微笑んだ。
う…やっぱり似ている。なんだかやりづらい。
「そんなものではないよ。少し世界をいじっただけだ」
…ただのリアルな夢を見ているだけかもしれない。
だけどこれが本当に、夢と霊界の繋がった場所だとすれば─
この世界を統べる神は目の前の、ぞっとするほどあの子に似たこの人に違いない。
だがなぜ、とっくの昔に亡くなったはずのこの人が神として存在している?
「やはり気になるか。少年」
ぴたりと体の動きが止まった。
今。
俺の心を─