はらり、ひとひら。
「恐ろしいか? だが安心してくれ、全てがわかるわけじゃない」
「っ、あなたは…!!」
まるで心臓を掌握されているかのような気分は非情に不愉快だった。
なんてことだ。
未来透視は、ただ漠然とした未来がわかる能力ではなかったのか。
そんな大雑把なものじゃない。
正しくは、一人を対象に絞り込んで相手の心、言動すら読めてしまう力。
なんて恐ろしい。
なんて傲慢。
そんなの、神そのものだ。
「桜子。怖がらせるな」
白狐の叱責する声にようやくはっとする。
「神崎の小僧。貴様も怯みすぎだ…と言いたいがまあ、無理もないか」
「ごめん…さすがに驚いた」
「神と相見えるのは初めてか? ならば気圧(けお)されて然り」
これが神の圧力だと言わんばかりの白狐の目。
「そうだね…今まで何度か少しは見たことはあったけど、こんなに近くで見たのは今日が初めてだ」
端々から感じる、どんなに力のある大妖も持たない品格に恐れを抱くのは本能的なものか。
人の見た目と似ているようでまるで違う。
これが神。
「ゆっくり話したかったが、生憎と時間がないな。そろそろ本題へ移っていいか? 少年。いや、神崎真澄…くん?」
「あ、ええと…神崎でいいです」
神崎くんと呼ばれるとどうしても椎名さんとダブってしまう。
いや…この場合、この人も椎名さんなのか。
…難しい。
こちらとしてもなんて呼べば正解かわからない。
「これくらいの人の子は呼び方に困るな」
笑う桜子さんに少し緊張が解けた。意外とお茶目なところもあるのかもしれない。
「では、神崎少年。私のことは桜子でいい。まず私が君をここへ呼んだのはほかでもない、君にしかできないことを頼むためだ」
俺にしかできないこと。
「それは、なんでしょう」