はらり、ひとひら。
白昼夢のようだった。
未だに椎名さんのお祖母さんが、椎名さんと瓜二つの顔で霊界で神として存在しているだなんてお伽噺、信じられないし。
「桜子さんは人の命を全うして亡くなったわけでは…ないのかな」
他の神と契約をしたとか。
例えば神に命を差し出す代わりに、何かを得たとか…
「いや。それはないな…」
そんな恐ろしげなことを考える自分に辟易した。
この期に及んでどこまでも疑り深いのは、自分の短所だ。
薄ぼんやりした思考回路では何を考えても儘ならないと先ほど貰った欠片を飲み下そうとした時、ふと違和感を覚えて手を止めた。
「…霊界? そうだ。あそこは霊界だった……」
ずきんとこめかみに鋭い痛みが走る。
おかしい。
なんで。
どうして気が付かなかった?
「白狐はなぜ、霊界に居ても平気だったんだ…?」
悟った瞬間、ぶわりと冷汗が吹き出した。
本来なら、ひとつの霊界に棲む神は一柱だけ。
もちろん夫婦のような2対の神のような例外はあるが、ふつうはそうなのだ。
覚え違いでなければ、書物にはそう記してあったはずだ。
霊界とはいわば神の縄張りのようなもの。
穢れなき崇高な場所だ。
おいそれと侵入できるようなところではない。
人は神の供物になり得るため妖ほど拒まれはしない。神が招き入れれば人は苦痛も何も生じない。
けれど神と拮抗する存在である妖が入り込もうものなら─?
決まっている。答えはひとつ。
「妖の身は蝕まれて消滅してもおかしくないのに、どうして」
白狐は平気だった?
「っ」
おかしな話じゃないか。
まるで、それじゃあまるで…
白狐が桜子さんと二対の神様みたいだ。