はらり、ひとひら。
頭によぎった、夫婦神の三文字。
「…まさか、そんな。ありえない」
バカバカしいと笑いながらかぶりを振って、考えを打ち払った。
なら…純粋に、あの人は神に転じたんだろうか?
人間が神になることは普通できない、そうずっと信じていたけど。
「ッそうか…」
前例はあるじゃないか。
なぜ気づけなかったんだ。歯噛みして拳を畳へ打ち付けた。
最たる例が椎名家だ。千年前、当時の神崎家の妻の女は、鬼神へと化けた。夫を脅威から守るため。
同時に平坂も同じものになった。麻上を庇うため。
血だ。素質ある血族。桜子さんは本当に人から神に転じて、あの場所に留まりつづけて未来を占いつづけているんだ。
何年、何十年と。
人である『桜子』が亡くなったときからずっと─
「…だけど唯一わからない、じゃあ白狐は何なんだ?」
神に仕える式神?
順当な契約を踏めば、霊界に身を食われることもないのかもしれない。
…わからない。神の領域は本当に未知なのだ。
妖と違って知恵も能力も非でない存在の彼らを知るには、人の力ではあまりに非力。
神の眼前にひれ伏して、「お話を聞かせてください」と頭を下げるだけでも不敬と見做され消されてしまってもおかしくないほど、神の力は絶対的なんだ。
この世を裏から支配しているのは幾人もの神々。
どれほどの力を持つ妖も、人も及ばぬ絶対的存在─
「…頼るべきか」
叡智の欠片を口に含もうとした、まさにその時だった。
「…神崎くんっ!!」