はらり、ひとひら。
─この声、間違いない。
立ち上がって俺が開けるより早く、襖が勝手に開いた。
女性のお手伝いさんが2人がかりで椎名さんを後ろから取り押さえている。
「若様はお休み中です!」と怒号が飛ぶ。椎名さんはひどく暴れて「放して」と抗った。
何しているんだ?
「一体なにが…」
「神崎くん…! お願い、話を聞いて!」
さっき霊界で見た顔とそっくり同じ顔が、血相を変えてこちらを見ていた。
「椎名さん…?! 手を放して、平気だから」
そう言うと二人は躊躇しながら放れ、引き下がった。
荒げた息をそのまま、椎名さんは俺の着物の裾を掴むと涙をぼろぼろと零した。
「連絡、来てない!?」
「連絡…?」
何がなんだかわからなかったが、ただならぬ様子の彼女をひとまず部屋に通した。
と、同時に自分の携帯端末の通知が光っていることに今更気が付いた。
慌てて開くと着信履歴が六件。
一番新しいものが、俺が大体目を覚ますほんの十分前。
「千鶴兄さん…?」
携帯からだ。よほど緊急のものと思える。
まさか─結界が!?
「っ」
リダイヤルのボタンを押した。
ワンコールで兄さんは出た。横で畳に額を擦りつけながらしゃくり上げた声に耳を疑う。
「月子ちゃんが、月子ちゃんが…!」
─え?
『月子が、何者かに襲われた。
今しがた市内の病院に移送されたが………』