はらり、ひとひら。


─この声、間違いない。

立ち上がって俺が開けるより早く、襖が勝手に開いた。

女性のお手伝いさんが2人がかりで椎名さんを後ろから取り押さえている。
「若様はお休み中です!」と怒号が飛ぶ。椎名さんはひどく暴れて「放して」と抗った。

何しているんだ?


「一体なにが…」


「神崎くん…! お願い、話を聞いて!」


さっき霊界で見た顔とそっくり同じ顔が、血相を変えてこちらを見ていた。


「椎名さん…?! 手を放して、平気だから」

そう言うと二人は躊躇しながら放れ、引き下がった。

荒げた息をそのまま、椎名さんは俺の着物の裾を掴むと涙をぼろぼろと零した。


「連絡、来てない!?」

「連絡…?」


何がなんだかわからなかったが、ただならぬ様子の彼女をひとまず部屋に通した。
と、同時に自分の携帯端末の通知が光っていることに今更気が付いた。


慌てて開くと着信履歴が六件。


一番新しいものが、俺が大体目を覚ますほんの十分前。


「千鶴兄さん…?」

携帯からだ。よほど緊急のものと思える。


まさか─結界が!?


「っ」

リダイヤルのボタンを押した。


ワンコールで兄さんは出た。横で畳に額を擦りつけながらしゃくり上げた声に耳を疑う。



「月子ちゃんが、月子ちゃんが…!」


─え?


『月子が、何者かに襲われた。

今しがた市内の病院に移送されたが………』


< 970 / 1,020 >

この作品をシェア

pagetop