はらり、ひとひら。
少し復習しよう。
そもそも化け妖とは、元は動物や妖でない生き物だったものに霊魂が宿って妖へと転じた存在である。
有名どころでいえば猫又や狐狸妖怪がそうだ。
人の言葉を操ったり、いたずらしたりとすることは種族によって千差万別。同じ妖であっても個体によってできたり、できなかったりと差が生まれることも珍しくない。
これは妖力の差によるものだ。
「どうもおかしい。どうも、引っかかる。…三人を食ったのは、本当に、妖の仕業か?」
「…!?」
とんとんとん、と兄さんは爪でテーブルを突いた。
ガラステーブルに当たった短い爪が軽い音を鳴らす。
恐らく無意識であるだろうが、これは千鶴兄さんが集中しているときにする、特有の癖。
そして大抵は─何かを強く疑って、否定するときにみられるもの。
「……でも、傷口が…」
刀傷や人がつけたようなモノじゃない以上、妖を疑うほかない。
いや…もちろん純粋な獣害の線もあるか。
だがこの地域には熊は存在しない。だとすれば考えられるのは猪や鹿くらいか。
でも、そんな被害報告は今までなかった。そもそも野生の動物の数自体、昨今の猪猟の影響で激減していると聞いたし。
「兄さん。野生の動物はこちらがヘタに刺激しない限り、人を見れば恐れて逃げ出すはずだ。月子もそのへんの知識はあっただろ?」
千鶴兄さんはこくりと頷いた。
「あぁ。俺が言うのもなんだが月子は賢い。それに肝っ玉がでっけえんだ。俺や陸なんかよりずうっとな。運悪く遭遇した相手が熊でも、無傷で帰ってこれるだろう。
だけどよ、真澄。こりゃあ多分、純粋な獣の仕業でも、妖の仕業でもねぇ」
「─獣妖と似て非なる、人工的に造られた式神だ」