はらり、ひとひら。
違う声が飛び込んできて顔を上げた。
驚いたが気配が薄いのはいつもと同じ。大きな荷物を片手に陸兄さんが立っていた。
私服の彼と目が合うと陸兄さんは「真澄。杏子さん。夜も遅いのに、来てくれてありがとう」と頭を下げた。
いつもとなんら顔色の変わらない彼。
なぜこんな状況でも平然としていられるのか。そうあることを強いられているのか…
「肝心な時に電話に出られなくてごめん。俺がもっと早くに気づけていたら、いつも通り式神を飛ばしていたら…」
いつもは毎日、欠かさずに飛ばしていたのに。
なぜ休んでしまったんだ。なぜ寝てしまったんだ。
なぜ今日だったんだ。
「っ─う」
悔しさが募ってやりきれない。
堪えていたものが一気に瓦解した音がする。
あの時もう少しだけ堪えて力を振り絞っていればと後悔しても後の祭り。
陸兄さんは少しだけ驚いたが、笑って首を振る。
「大丈夫。真澄は悪くない……それにまだ終わってない。月子はきっと、戻ってくる」
大きな手が俺の頭を撫でて、諭すように語りかけた。
俺なんかよりずっと、兄さんたちがつらいだろうに。
止めなくてはと飲み込んでも堪えても、一度決壊してしまえば涙は止まることを知らなかった。
「神崎くん…」
隣の椎名さんの涙声が聞こえた。
震える小さい掌の優しい温度を感じながら、何度も何度もしゃくりあげた。