はらり、ひとひら。


ゆっくりと、ページを捲った。







─それは遥か昔のこと。

関高築町が、上村と下村に二分されていた時代までさかのぼる。


上村を治めるは神崎という男。
下村を治めるは麻上という男。


二村は互いに競い合い、時として助け合い、村を発展させていきました。



─ある年の夏の日。

村を嵐が襲います。

ひどい雨風は一晩で村の作物を軒並み倒してしまいました。
特に大きな川に隣接している下村は、甚大な被害を被(こうむ)りました。

土砂が、洪水が、下村をまるごと飲み込みます。


「おぉ、神よ」

「なぜ、このような仕打ちをなさるのか」


食物や家、果ては人の命すら数多く奪ったその嵐によって─下村は再起不能にまで陥ります。

肩を落とす下村の人間に、手を差し伸べる者がいました。



「今こそ共に手を取って歩もう」



麻上は、神崎の手を取りました。


「共に町をつくろう。
そして二度とこの悲しみを繰り返さないように、水害から町を守るべく、龍神を祀ろう」


ふたりは村のはずれに祠を立て、町の安寧を願い龍神を祀りました。

二度と町が、水に晒されないよう。


「町の名は、こうしよう」


関という字は遮るものを意味しています。
外部の脅威から町人(まちびと)たちを保護する。

隔てるものを高く築く。


─関高築町の語源になったと言われています。





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