はらり、ひとひら。
椎名の持つ強い力は次々と現れ、多くの人を救いました。
先見の明があり、どんな怪我も治し、言葉のひとつひとつは祈りとなり─祈りはやがてうつつとなる。
やがて彼女は人から「巫女」と呼ばれるようになりました。
神崎は優秀な剣士に。
その妻は優秀な術師に。
「これで町は安泰だ」
誰もがそう、信じて疑いませんでした。
けれど悲しいかな、その二人を妬む影、ひとつ。
「なぜお前ばかり」
「始まりは同じだったはずなのに」
「いつから我らは、我らの道は、違えてしまった」
嫉妬の炎が身を焼き、苦しみに喘いだのはかつての同胞─麻上でした。
麻上は神崎の背中に追いつくために術を学びましたが、どれも取るに足らない弱きものでした。
「これでは、足りない」
「追いつけない」
「追い越せない、認めてもらえない」
むくむくと。
湧き上がった黒きこころに呼応するように、ささやいたのは悪魔でした。
「力を欲するならば、我を迎えいれよ」
すっかりあやかしに取り込まれた麻上は─
禁術と呼ばれる呪術の類に手を出してしまったのです。