はらり、ひとひら。


そして、平坂の鬼は死に、麻上も先の戦いのさなかで命を落とし、神崎は死の瀬戸際をさまよったが─奇跡的に快復を果たした。


一度鬼に転じてしまった体は人に戻ることはできなかったが、神崎はよりいっそう彼女を愛した。


「命も、この体も─どうなってもいいと、初めて思えたのです」


溺れるほど深く、慈愛に満ちた椎名の鬼は─彼と添い遂げたあと全国各地の花々を見て回ったことから『巡姫』と名を記され、やがてお隠れになった。


そして巡姫の没後、平坂の鬼も、誇り高く志を貫き最期まで戦ったことから、『禍津姫』という名で、神として丁重に祀り上げた。



そうして─相反する二柱の神々はそれぞれ別々の場所に祀られてはいるが、どちらもこの町を語るうえで欠くことのできない産土神となったのだ。







読み終えた私はしばらく放心していたらしい。


心配そうに覗き込む神崎くんの視線が痛い。


「……これが、すべての始まりだったんだ」

「めぐる…ひめ、私の、祖先が?」


なに? わけが、わからない。こんなおとぎ話を聞かされて、神様の末裔とまで言われて。


笑うしかないよこんな。


「おとぎ話なんかじゃないよ」



真っ直ぐな声がいやに鼓膜を打った。
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