[完]大人の恋の始め方
誰よりも年上なのに、それを感じさせないから、やっぱりアイドルだなって思う。
「でも杏里ちゃんって、本当に一般人なの?」
蓮さんが更に近付いたとき、優斗さんは、あたしを完全に自分の影に隠した。
「え~、高杉もうちょっといいじゃん!」
不満そうな声が耳に届く。
「こいつは、結構大切なんでダメですよ」
優しいけど、どこか冷たい声が、今度は耳に届いた。
そんな時、あたしに新たな声が加わった。
「高杉さぁんっ!待ってたんですよぉ~?」
甘ったるくて、語尾にハートを付けて話す彼女は、ヒロインの沖田 美麗(みれい)だった。
彼女は、モデルから女優になった方で、今大ブームの芸能人の一人。
その抜群のスタイルと、キツめの大きな目、ぷっくりとした唇が人気の理由のひとつ。
「あーすいません」
形は、綺麗に謝っている優斗さんだけど、心がこもっていないのを、あたしは感じとった。
「高杉さんって、いつもクールなんだからぁッ!」
彼をツンツンといじっている辺りを見ると、どうやら彼女は、彼が自分に興味を示していない事に、気づいてないらしい。
「あれ、だぁれ?この子」
今まで本当に気付かなかったのか、あたしが影に隠れていたからなのか、彼女は驚きの憎しみの混ざった顔を見せた。