[完]大人の恋の始め方
「噂の杏里ちゃんだよ」
監督さんは、ニコニコしながら、あたしを指差す。
「へえ、この子が」
彼女は、あたしをなめ回すように、観察する。
その状況は、決して居心地の良いものではない。
「あなたいくつ?」
感情のこもってない、その瞳は、あたしを映す。
「16歳です。高校2年生」
「へえ…可愛らしいわね」
思いっ切り棒読みのその台詞に、あたしは苦笑いしか出来なかった。
少しすると、本格的にパーティーが始まり、優斗さんは仕事の話に入った。
あたしは、邪魔してはまずいと思い、その場を離れ、一人ぽつんと、隅に立っていた。
ほんと、仕事モードの優斗さんって、カッコイイなぁ。
さっきから、ずっと優斗さんを見ちゃってるけど、あの優しい"出来る男"はカッコイイ。
それに、今日はスーツを着ているから余計だ。
執事役の蓮さんよりも、似合いそう。
一人でそんな事を思っていると、誰かに声を掛けられた。
「あのー、もしかして杏里ちゃん?」
振り向けば、痩せた男性が立っている。
第一印象、"病院行った方がいい人"って感じ。
健康に欠ける彼に、あたしは小さく頷いた。
すると、彼はその不健康な顔を、いっぱいいっぱいに明るくさせた。