[完]大人の恋の始め方
奪って…
あたしは、少し息の切れたその吐息に、耳を澄ませた。
心地好い。
ちょっと早めの規則正しい拍動。
あたしを抱きしめる細くてガッチリとした腕。
ちょっとだけの汗の匂いと、爽やかな匂いが混ざっていて、それがやけに、あたしの身体をほてらせる。
後ろを振り返って確認なんて、する必要がない。
もう馴れてしまった。
身体が分かってしまった。
「…優斗さん」
あたしは、首元に回ったその腕を、きゅっと掴んだ。
少し湿ったその肌は、走って来たことを物語っている。
「はぁ…やっと見付けた」
不機嫌そうなその声は、やっぱり優斗さんのもので。
楽さんと一緒にいた時には無かった、安心感が湧いた。
「優斗さん、どうしたんですか?」
楽さんも驚いた様子で、こちらを見ている。
「どっかの誰かさんが、勝手に盗んでったから、取り返しに来たんですよ」
そう言うと、腰に回していた左手を、あたしの頭の上に乗せる。
「へ~っ♪やっぱ大事なんだねぇ!汗だくで取りに来るなんて」
楽さんの発した"大事"というワードに、ピクンと反応する。