[完]大人の恋の始め方
「え?」
ゾクリと背中に、冷たさが伝わる。
今までにはない、嫌な雰囲気で、振り向く事を許さない。
まるで別人のようだ。
………一体、二人の間に何が?
そもそも、知り合いだったの?
奈緒って…誰?
いろんな疑問が渦巻く。
堪らなく怖くて、仕方ない。
「楽、お前なんで今…」
先ほどまで怒りはなく、明らかに動揺の色が見られる。
「なんで今…か。俺は、今までそれしか考えてねーよ」
少し力が入る楽さんの腕。
苦しいと思うのは、何故?
息苦しいとか、そんな単純な理由ではない気がする。
何だか、うちに秘めた何かが、あたしを締め付けているような気がした。
「あの時は、ホントに悪かったよ」
楽さんの様子を見て、流石に優斗さんも素直に謝っている。
「それは、本音か?違うよな?ただ、杏里を返してほしいだけだろ?」
そう言うと、あたしに顔を近付けた。
「あの頃の俺の気持ち、分かるか?
分かるわけねーよな。今だって、こんな可愛いの見付けて喜んでんだから」
優斗さんが、あたしから楽さんを離らかそうとするも、それを許さない。
分からない二人の会話に、不安と恐怖だけが強くなる。