[完]大人の恋の始め方
「楽さん…止めて……」
いつの間にか出ていた涙を、拭きながら訴える。
でも……。
「それは出来ないよ。優斗はね、俺から悪ふざけで、最愛の彼女を奪ったんだ。だから…」
そこで言葉を止める優斗さん。
ジッと見詰められ、何かと首を傾げる。
「本当に鈍感だね?まぁ、そこが可愛いんだけど」
なんの事だか分からなくて、ただ戸惑う事しかできない。
「おいっ楽止めろっ!!」
「今更気付いても遅いから」
楽さんはそれだけ言うと、ゆっくりと顔を傾けた。
近付く顔。
掛かる吐息。
そのまま二人は近付いて、そして………
「止めてよっ!!!」
大きな衝撃音と、怒鳴り声が辺りを包んだ。
固まる二人。
そんな二人をあたしは睨んだ。
さっきまでの不安と恐怖が嘘のように、怒りへ変わったのだ。
「さっきから何!?二人であたしを挟んで言い合いして!奈緒さん?知らないわよ、そんなの。
ただねぇ、あたしは奈緒さんじゃないの!まるであたしが身代わりみたいじゃない!ふざけんじゃないわよ!
あたし、そんなの構ってらんないから」