[完]大人の恋の始め方
無理もない。
なかなかの肉じゃがが出来たんだから。
あたし達は、雑穀米やお味噌汁、胡麻和えなんかを準備した。
そしていざ、食べようかというとき………。
「ただいま」
リビングのドアを開けて入ってきた優斗さん。
ビックリして固まる身体。
それは彼も同じようで、こちらを向いて固まっている。
「あ、もしかして優斗さん?」
ポカンとした顔であたしを見つめる心美。
その心美に、あたしはゆっくりと頷いた。
「えーっ意外とそうでもない!」
満面の笑みで発されたその言葉。
嘘でしょ?
優斗さんもいくらか右の眉を潜めた。
その後、その細くて長い指でネクタイを緩め、スーツを脱ぐ。
その行動に、心臓が五月蝿い程ドキドキした。
「優斗さん、なんで杏里を避けるの?」
背中を向けている優斗さんに心美が尋ねる。
「初対面でいきなりそれですか?佐藤 心美ちゃん」
首だけをこちらに向ける。
「あれ?なんで?」
自分の名前をフルネームで言われて驚く心美。
そんな彼女に、優斗さんは右口角を上げた。
「一応ヘアーメイクリストだし、心美ちゃんはテレビにも出てるから知ってるよ」