[完]大人の恋の始め方
そう呟くと、あたしの顔を覗き込む綺麗な顔。
「杏里…おまっ…」
心配そうに顔を歪めた優斗さんの胸に、あたしは顔を埋め、背中に手を回した。
表情は見えてないけど、多分戸惑っていると思う。
なんせ、自分でさえ戸惑ってるんだから。
自分からこんな事するなんて。
でも、優里花さんの言葉で、あたしの気持ちの蛇口は、完全に開かれてしまったらしい。
お陰で、優斗さんが愛しくて愛しくて仕方ない。
もう、制御しない。
あたしが優斗さんを想う気持ちはひとつ。
あたしは優斗さんが…好き。
「あらあら。若いわねぇ」
優里花さんの声が聞こえ、恥ずかしくなって身体を離した。
それから目が合う。
優里花さんは微笑みをくれた。
「姉貴、んじゃ杏里を連れて帰るわ」
そう言うと、あたしをひょいと担ぐ。
その時、あたしの脳裏に、昔の記憶が甦った。
なんだ。
そうだったんだ。
やっぱり担がれるのは恥ずかしくて、下ろして貰った。
でも、手は絶対に離さない。
「優斗。手加減しなさいよ?」
「まぁ、出来る限り」
意味の分からない話。
そんな話より、あたしはどうやってこの気持ちを伝えるか、それで頭がいっぱいだった。