[完]大人の恋の始め方
「もしもし?」
掠れた声で、尚且つ不機嫌そのものの声が、ダイレクトに耳に通った。
おかしい。
友美は、朝機嫌が悪くなるタイプじゃない。
「あの友美?杏里だけど…」
そう言うと、小さなため息が聞こえた。
「今日は休むよ…」
「うん、知ってる。でも本当にサボりなの?」
声を聞く限りでは、とても調子が良いとは思えない。
「サボりだよ…。まぁ、ちょっと怠いけど」
「怠いの?熱は?家行こうか?」
電話の向こうで、友美が鼻で笑った気がした。
「いや、いいわ。家にいないし」
いつもより何倍も低くて、冷たい声。
友美、どうしちゃったの?!
胸の中に不安が募っていく。
「家にいないって……」
「男ん家ってこと。………あ、ゴメン。電話切るわ」
「えっ!?ちょっ、友美?!」
耳に当てた携帯からは、無機質な音しか聞こえない。
最後に聞こえた「…友」って声、聞いた事がある気がする。
あたしは携帯を閉じ、見つめた。
変だ。友美が変だ。
男の人と一緒なんて良くあること。
そう思うのに、何か腑に落ちない。
それが何かは分からない。
ただ、心配と不安だけが渦巻くだけだった。