[完]大人の恋の始め方



「うぎゃーーーじゃねぇよ。
俺聞いてないぞ、蓮が一緒だなんて」



ムッとして、あたしをさりげなく蓮くんから遠ざける。



でも、それが嬉しいあたしは、悪魔なのかもしれません。



「ごめんね?言うの忘れてて…」



嘘。
本当は、優斗さんにこのこと話して、嫌だって言いたかった。


でも、あたしもプロなんだから、そんなこと許されない。


だから言わないように、あえて黙っていた。



「杏里ちゃん、改めて今日はよろしくね?」



にひっと笑う蓮くん。



その笑顔が、あたしには怖かった。



…………―――



「杏里ちゃーん?なんか笑顔固いよー」



カメラマンが、あたしを困った表情で見つめる。



ゔ……


そんなこと言われたって!!



こっ、こんな近かったら緊張するわよー!!!



こんなってのは、あたしが蓮くんの首に手を回して、顔を極限まで近付けているのだ。



無理無理無理無理!!!



こんな近さ、優斗さんとやっても緊張する!!!



第一、優斗さんもちょーこっち睨んでるんですけど!



「仕方ない、休憩いれようか」



現場監督の声で、皆が一斉に散らばる。



あたしもすぐにその手を離した。



やばっ、ずっとOK出なかったから、腕痛い。



OK出なかったのはあたしのせい。



それでも、あたしにはやれる気がしなかった。



< 433 / 500 >

この作品をシェア

pagetop