[完]大人の恋の始め方
「うぎゃーーーじゃねぇよ。
俺聞いてないぞ、蓮が一緒だなんて」
ムッとして、あたしをさりげなく蓮くんから遠ざける。
でも、それが嬉しいあたしは、悪魔なのかもしれません。
「ごめんね?言うの忘れてて…」
嘘。
本当は、優斗さんにこのこと話して、嫌だって言いたかった。
でも、あたしもプロなんだから、そんなこと許されない。
だから言わないように、あえて黙っていた。
「杏里ちゃん、改めて今日はよろしくね?」
にひっと笑う蓮くん。
その笑顔が、あたしには怖かった。
…………―――
「杏里ちゃーん?なんか笑顔固いよー」
カメラマンが、あたしを困った表情で見つめる。
ゔ……
そんなこと言われたって!!
こっ、こんな近かったら緊張するわよー!!!
こんなってのは、あたしが蓮くんの首に手を回して、顔を極限まで近付けているのだ。
無理無理無理無理!!!
こんな近さ、優斗さんとやっても緊張する!!!
第一、優斗さんもちょーこっち睨んでるんですけど!
「仕方ない、休憩いれようか」
現場監督の声で、皆が一斉に散らばる。
あたしもすぐにその手を離した。
やばっ、ずっとOK出なかったから、腕痛い。
OK出なかったのはあたしのせい。
それでも、あたしにはやれる気がしなかった。