[完]大人の恋の始め方





「杏里ちゃん、大丈夫?」



蓮くんは、そんなあたしを心配そうに見つめる。



…このままじゃ、蓮くんにも迷惑。



出来る気がしないなんて、言ってられない。



「大丈夫です!
あたし、頑張りますね?」



そう、笑顔を向けた時だった。



腕を引かれ、ポスッと何かに包まれた。



え?と見上げると、そこには。



「優斗さん…?」



あたしを抱きしめるのは、優斗さん。



「やっぱ、お前には無理だ」



優斗さんは、そう言うと、あたしを引っ張る。



無理…?



撮影のこと…?



戸惑いながらも、連れて来られたのは、控え室。



そこの椅子に、あたしを座らせる。



「あの、急にどうしたの?」



あたしの質問は、まるでシカト。



何かを捜し出す。



なんなのよ。



そう言いたいとこだけど、そんなこと言ったら…



考えただけで恐ろしい。



「杏里、少し休め」



優斗さんは、そう言ってあたしに薬を渡す。



……へ?



「なんで…薬?」



なんの薬かも分からないでいると、優斗さんは、そっとあたしの額に触れた。



「お前は馬鹿か。熱あんだろが」


言われてみれば、確かに怠い。


けど、そんな感じてなかったんだけど…。



「ったく。調子悪いから笑顔も出来ねーんだよ。腕もパンパンだろ?」



そう言って触られた腕は、悲鳴をあげた。



「っっん!」



「ほらな?監督には上手く言っとくから、お前は少し休めよ?」



最後は、優しく撫でられた頭。

微笑み。



優斗さん…凄いな。


なんでも分かってくれる。



あたしは、優斗さんにトキメキながら、まぶたを閉じた。



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