[完]大人の恋の始め方
スタジオに戻ると、既に皆さんの用意が整っていた。
あとは、あたしだけ。という雰囲気だ。
「あ、杏里ちゃん!
熱あるんだって?大丈夫?」
中島蓮くんは、あたしを見るなり、心配そうな表情を浮かべる。
「あ、はい。もうすっかり」
「よかった。
杏里ちゃん、今日不調だったのは、熱のせいなんだね」
中島蓮くんは、とりあえず一安心と、胸を撫で下ろす。
そんなわけない。
あたしが不調なのは…。
「じゃあ、撮影再開しようか」
カメラさんの声が響き、あたし達は再び、ポーズをとる。
だけど、やっぱりあたしの表情は固い。
「杏里ちゃん、頑張って!」
カメラさんも、もう仕方ないといった表情を浮かべる。
あたしだって、すぐにおわらせたい。
でも、身体はそうはいかない。
すると、もう何十分も撮っていたその時。
急にあたしの視界からカメラが、消える。
見えるのは、中島蓮くんの…目。
ふっと微笑むのも一瞬。
パシャパシャとカメラ音が鳴り響く。
どうやら、あたしの表情が見えないようにしたらしい。
その結果、撮影は無事終えることが出来た。
これは、中島蓮くんのお陰だな。
随分申し訳ないことをしてしまったと後悔する。
「杏里ちゃん、中島くんはやっぱり緊張しちゃう?」
カメラさんも、あたしが緊張していることに気付いていたらしい。