[完]大人の恋の始め方




スタジオに戻ると、既に皆さんの用意が整っていた。



あとは、あたしだけ。という雰囲気だ。



「あ、杏里ちゃん!
熱あるんだって?大丈夫?」



中島蓮くんは、あたしを見るなり、心配そうな表情を浮かべる。



「あ、はい。もうすっかり」



「よかった。
杏里ちゃん、今日不調だったのは、熱のせいなんだね」



中島蓮くんは、とりあえず一安心と、胸を撫で下ろす。



そんなわけない。
あたしが不調なのは…。



「じゃあ、撮影再開しようか」



カメラさんの声が響き、あたし達は再び、ポーズをとる。



だけど、やっぱりあたしの表情は固い。



「杏里ちゃん、頑張って!」



カメラさんも、もう仕方ないといった表情を浮かべる。



あたしだって、すぐにおわらせたい。



でも、身体はそうはいかない。


すると、もう何十分も撮っていたその時。



急にあたしの視界からカメラが、消える。



見えるのは、中島蓮くんの…目。



ふっと微笑むのも一瞬。



パシャパシャとカメラ音が鳴り響く。



どうやら、あたしの表情が見えないようにしたらしい。



その結果、撮影は無事終えることが出来た。



これは、中島蓮くんのお陰だな。



随分申し訳ないことをしてしまったと後悔する。



「杏里ちゃん、中島くんはやっぱり緊張しちゃう?」



カメラさんも、あたしが緊張していることに気付いていたらしい。




< 437 / 500 >

この作品をシェア

pagetop