[完]大人の恋の始め方
「……杏里。ちゃんと確認しろよ」
ぶつかったのは大翔先生。
大翔先生の発した、"杏里"という単語に、身体をビクつかせる。
「え、ヒロ先生って、杏里の事呼び捨てなの?」
友美の言葉に、さらに身体が反応する。
「え、あー、いや」
大翔先生が、なんか言おうとしている。
そんな彼を押し退けて、あたしは学校をあとにした。
校門を少し出ると、見慣れた黒い車を発見した。
あれって……
車のドアを開け、その長身の男が現れる。
「杏里、迎えにきた」
「あ、優斗さん…」
自分でも驚くほどの弱々しい声。
だけど、なんでだろう?
優斗さんを見た瞬間、なんだか落ち着く心がある。
「なんだよ。この俺様が来てやったのに、嬉しくないのかよ?あ?」
相変わらず、意地悪な言葉。
なのに、今はそれでも、優斗さんに頼りたかった。
「嬉しいよ…」
あたしは気付いたら、優斗さんに抱き着いていた。
多分、いつものあたしならしない。
でも、今はこうしたかった。
大翔先生は、いつだってあたしを狂わす人だ。
あたしの携帯が、鳴り響く中、あたしは優斗さんに抱き着いたまま、涙を浮かべた。
優斗さんもまた、おかしなあたしを、そっと抱きしめた。