[完]大人の恋の始め方
やっと涙が出たときには、響くんと体育館裏にいた。
「……ヒック…ヒック……フッ…」
黙ったあたし達の間では、あたしの嗚咽だけが響く。
どうして?
どうして、あたしじゃない人とキスしてるの?
あたしと大翔って、一体なんなの?
疑問がいくつも湧いてきて、涙は零れる。
「響くっん……ヒック…」
「…ん?」
ん?の一言だけでも分かるほど、いつもより何倍も優しい響くん。
その声が、涙を誘う。
「…なっんか、変なっ……事に………巻き…混んで……ゴメンっ………ねっ?」
響くんには、全然関係ないのに、響くんを付き合わせちゃってる。
「んな事、気にしてねぇで、思いっ切り泣けよ?」
響くんは、そう言うと、あたしに胸を貸してくれた。
きっと、響くんの前だから、あたしは思いっ切り泣けたんだと、今は思う。
「……響くん、ありがとう。とりあえず、スッキリした」
これでもか!!って程泣いたら、いくらか落ち着いたのは本音。
これも全部、響くんのおかげだ。
「いや、俺は礼言われるような事してないよ。それより、どうするんだ?」
どうする、とは大翔の事。
さすがに、このままではいられない。
「明日、話してみる」
きっと、話さないといけない。
あたしは、そんな気がした。
「そっか、俺はいつでも、杏里の味方だからな?」
あたしは、響くんに大きく頷き、「ありがとう」と、言った。