硝子の桜-the LastSong-




「…肌に触れた柔らかな空気の流れが風。向こうに見えるのが木。木は集まって森になる」

「…かぜ、…き、…もり」


時折指を指しながら説明する神威の言葉を噛み締めるように繰り返す少女。


「あなたは、かむい、ユウ」


座ったまま振り向く。
瞳にうっすらと涙を溜め、まだぎこちなさが残る笑顔を浮かべる少女を見て神威も微笑んだ。


「決めた」

「――へ?」

「お前の名前」

「!」


くしゃり、

少女の長いダークブルーの髪に触れて頭上を指差す。


「ティア」


意味は、月の姫。



「この国の神説に出てくる女神の名だ。お前によく似合う」


容姿が似ている訳じゃない。
特別好きな神様でもない。

けれど閉じ込められていたほの暗い部屋の中でも、か細い月の光を一身に浴び輝いていた少女にぴったりだと思った。
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