硝子の桜-the LastSong-
少年の合図で十人分くらいの影が俊敏に動いた。
近くにあった気配が一瞬にして消える。
見届けた少年は声を荒げる神威の後ろに隠れているティアに手を差し出した。
「貴女も大変ですね。こんな我が儘な団長に気に入られちゃって。僕はアルト。アルト・カムバーンです」
よろしく、と微笑まれてティアは戸惑った。
サラリと揺れる紅髪の下で優しく微笑む童顔。
フードから片目だけ顔を覗かせると、ティアは神威にしがみついていないほうの手でアルトの手を取った。
「…ティア」
「ティア。綺麗な名前ですね」
ちょこんと置かれた小さな手を握る。
名前を褒めるとフードの下でティアが嬉しそうにしていることが分かった。
(…可愛いらしいですね)
「いつまでも繋いでんじゃねーよ」
「団長、ヤキモチですか?」
「死ね」
辛辣な台詞を吐いて半ば乱暴に二人を引きはがす。
「俺達も帰艦するぞ」
「了解です」
こうして三人は屋敷を後にした。
移動中、再び神威に抱きしめられながら遠くなっていく屋敷を見つめ続けたティア。
これからは自分の足で新しいセカイを踏み締めて行かないといけない。