美味しい時間

手が私の腰のラインをなぞるように上下に移動する。
身体の奥のほうがキュンとした。今までに感じたことのない感覚。

「慶太郎さん、離して……」

「嫌だ」

「そんな、子供みたいなこと言わないで下さい」

自分でも分からなくなっていた。口では離してって言っておきながら、身体は離れたくないって思っている。
自分が自分じゃないみたい。どうしちゃったんだろう……。
そっと課長の頭を両手で包み込む。動いていた顔と手が一瞬止まった。

「それは甘えさせてくれるってこと?」

「分からない……です」

腰を抱いていた腕の力が緩くなる。ずっと擦り寄せていた顔も、私の身体から離れた。
私も頭から手を離し、課長の顔を見る。
右手がスッと伸びてきて頬に触れた。

「ごめん。ちょっとズルかったな」

そう言う顔は、ちょっと淋しそうだった。




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