美味しい時間

私自身も課長の腕から離れて、淋しいようなホッとしたような、何とも言えない気分になっている。

「いいえ。ちょっとビックリしただけで……」

そっと立ち上がり、もう一度課長の顔を見つめた。

「嫌だったわけじゃないですから……」

顔を赤くしてそう言うと、課長の顔が見る見るうちに明るさを増していく。
頬に触れていた手が移動して、唇に触れた。
その手にドキッとする。

「なぁ、百花からキスして」

「えっ?」

「ほら、ここに」

私の唇に当てていた指を、自分の唇にツンツンと当てている。
ものすごく期待した目で、私をそんなに見ないでよ……。
出来ないなんて言えない雰囲気。

大きく深呼吸してから、意を決めて手に拳を握る。
ゆっくりと課長との距離を縮めていく……。
ドキドキがハンパなくて、息ができない。
そして、あと数センチ……っと思ったその時。

「ごめん。可愛すぎてもう待てないっ!」

課長の唇が、強引に私の唇を貪り出した。

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