美味しい時間

その魅惑的な声色に、まるで魔法にでもかかったかのように自然と足が動き出す。
ただ眼の前にある一点だけを見つめそばまで行くと、ぺたんと座り込んだ。
すると課長は私の腰のあたりを縋りつくように抱きしめ、顔を擦り寄せてきた。

「百花、良い香りがする」

幼い子供が甘えているようで、クスクスと笑い身を捩る。

「慶太郎さん、くすぐったい……」

あまりのくすぐったさに我慢ができなくなり、課長を身体から離そうとした。すると突然身体を押され、まるでスローモーションのように背中から倒れていく。
そしてバサッと、課長が私に覆いかぶさった。

この状態が何を意味するのか……。
いくらお子さまの私にでも、すぐに分かってしまう。
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