美味しい時間

それからの記憶は定かでない。
課長の唇に、指に、そして……。
熱く狂おしいほどに身体中を弄ばれ溶かされると、何度も高みへと連れて行かれ
れた。


荒くなっていた息も落ち着き始めると、横に寝転んでいる課長にそろそろと近づいていき、ピタっと身体をひっつける。すると、肩肘ついて私を見ていた課長が無理なお願いをしてきた。

「ねぇ百花。もう一回言って」

「えっ? 何を?」

「俺の名前呼んで、“大好き”って」

私、そんな言葉を口走ったんだ。
全く覚えがないんだけど……。

「今は言えない……」

恥ずかしくなって課長から身体を離そうとすると、首の下を逞しい腕がスルッと通りぬけ、肩をガシっと掴んだ。思っていたよりも力強く掴まれて身体をビクッとさせてしまう。
でも、それも一瞬……。
自分から身体を離したくせに、クスっと笑ってしまった。

「そんなに言って欲しいんだ」

クルッと向き直り、課長の顔を覗き込む。そして、少しだけ驚いたような顔を見せた課長の耳元に、唇を這わせた。

「しょうがないなぁ。慶太郎……大好き」

クスクスと笑い、肩口に顔をこすりつけた。強気に攻めてくるかと思えば、可愛く甘えてくる。そのギャップがたまらなく愛おしい。
私が発した言葉に顔を僅かに赤くさせ、怒ったように言い放つ。

「お前だけだよ、俺にそんな態度とる奴は」

「私は慶太郎の特別?」

「当たり前だろ」

口調は乱暴だけど態度は照れていて、またまた愛おしさが募る。
自分から課長に抱きつくと、「はぁ~」と溜息ひとつ……。

「まっ、結果OKか……」

うん? 結果OK? 
よく分かんないけど、いいか……。
急激に睡魔がやってきて、頭がぼんやりしてきた。身体を身動ぎさせると、温かい腕に優しく包まれる。

「百花、俺も大好きだ。おやすみ」

その言葉を夢心地で聞き、幸せの気持ちのまま深い眠りについた。
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