美味しい時間
「ところで、お母さん。何で電話かけてきたの?」
『なんっだったかなぁ』
豪快に笑う母。昔から変わらないその声に、ここしばらく私の中になかった
穏やかな気持ちが戻ってきた。
「じゃあ、こっちに整理が終わったら連絡するね」
『はいはい』
そう言うと電話が切れた。
溜息をつき、また天井を仰ぐ。
会社を辞める……。ここ2~3日考え始めていたことだった。
仕事内容が気に入って入った会社だし、スキルを身につけていくのも楽しい。
正直なことを言えば、辞めたくはない。
でもこんな状況になってしまい、課長や倉橋さんと顔を合わせ仕事をしていら
れるほど、私は強くない。
仕事への集中力も保てなくなっているし、このあたりが限界だった。
「来週、辞表を提出しよう」
そう決めると布団を被り、目を閉じた。